伝統工芸士・佐々木氏の哲学 — 判断を積み重ねるという仕事
南部鉄器の歴史は、
約400年以上にわたり、寒冷な岩手の地で積み重ねられてきました。
その流れの中で、
盛岡の工房に立ち、数十年にわたり制作に向き合ってきたのが
伝統工芸士・佐々木和夫氏です。
佐々木氏にとって、南部鉄器を作るという行為は、形を整えることでは終わりません。
素材の状態を見極め、鋳型を整え、
仕上げの加減を判断する。
それら一つひとつの工程を、工房の中で自ら確認し、決断を重ねていくこと。
分業ではなく、制作全体に責任を通すことが、ものづくりの前提として据えられています。
工程が多いからではありません。
途中を省かないことが、
結果の一貫性につながると考えているからです。
品質の判断基準も明確です。
重さや存在感だけを価値とせず、
日常の使用に耐える軽さと、
細部まで破綻のない造形を重視します。
手作業であること。
軽量であること。
精巧に作られていること。
これらが同時に成立してはじめて、
道具として完成に近づく。
その判断基準は、長年変わっていません。
制作の時間軸は、出荷で終わるものではありません。
南部鉄器は、
使い手の暮らしの中で時間を重ねることで
完成へ向かうものだと捉えられています。
数年で役目を終える消費財ではなく、
世代を超えて使われることを前提とした耐久性と、
修復可能性が、最初から設計に含まれています。
こうした姿勢は、
真正性への向き合い方にも表れています。
外見だけでは区別が難しい時代だからこそ、
制作の事実を説明できる状態を残す。
産地と工程を明確にし、
責任の所在を自らの名前で引き受ける。
佐々木氏の哲学は、
声高に語られるものではありません。
工房の中での選択と判断として、
静かに、しかし確実に積み重ねられてきました。
その積み重ねこそが、
南部鉄器を「一生使う道具」として成立させている土台です。
▶ 岩手・水沢の工房紹介(製造工程の全記録)
― 南部鉄器が完成するまでの、判断と手仕事のすべて